「1円スマホ」是正促す 公取委、不当廉売の恐れ指摘
公正取引委員会は24日、スマートフォンを極端に安く売る「1円スマホ」に関する調査報告書を公表した。携帯電話大手が端末を原価割れで販売代理店に卸し、赤字分は通信料収入から補塡していた実態が分かった。こうした販売方法は通信料が下がりにくい要因となり、独占禁止法が禁じる不当廉売につながる恐れがあるとして是正を求めた。
調査は2022年1~6月末に実施した。携帯大手のNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社と関東地方の販売代理店などを対象にした。販売台数が上位のiPhoneとアンドロイドの計40機種を中心に、消費者負担が1000円以下の場合を調べた。
19年に改正した電気通信事業法では端末と回線をセットで販売する際、端末価格の2万円を超える値引きを禁じた。一方で端末単体の販売には規制がなく、店舗独自の割引と称した2万円を超える値引きが放置されていた。
40機種のうち「1円」を含めて極端に安く売られていた割合は14.9%だった。アンドロイドの方がiPhoneよりも廉売の割合が高かった。別の通信事業者から乗り換えるケースが目立った。
携帯大手の多くが通信料収入で端末の赤字分を補塡していた。経営体力のある大手企業しかできない販売手法で、格安スマホ各社を競争上不利にしかねない。端末のみを販売する中古事業者や家電量販店も太刀打ちできない状況だった。
公取委は採算性を無視して低価格で顧客を囲い込むのは独禁法からみて問題があると指摘。携帯大手が代理店への廉売を通じて中古事業者などの事業を困難にさせている場合は独禁法の不当廉売の恐れがあると明記した。
販売代理店で端末を購入しても別の事業者と通信契約を結べることなどを消費者に対し十分に説明することが望ましいと改善を求めた。
販売代理店の安売りは、携帯大手による高い目標設定も影響していた。大手は代理店の収益を左右する「評価制度」によって、電話番号を変えずに通信サービスを乗り換える顧客の獲得を重視。無理な目標設定が、スマホの極端な値引きを助長した可能性がある。
報告書は、評価制度はただちに独禁法上の問題にならないものの、顧客獲得競争の範囲を超える目標を設けることは競争法上望ましくないとした。
携帯大手の営業担当者が直接代理店に安売りするよう働きかけた事例も見つかった。強い立場を利用して大幅な値引きを強要することは、独禁法の「優越的地位の乱用」にあたりかねないと懸念を示した。
公取委は「1円スマホ」のような極端な値引きが広がると、制度の見直しによって進めてきた競争環境の改善の妨げになるとの危機感を抱く。不当な販売手法は端末を買い占めて中古市場に売り出す「転売ヤー」が横行する問題にもつながる。
公取委調整課の天田弘人課長は「今後監視を強化し、独禁法の違反行為が実際に認められたら厳正に対処する」と語った。
総務省は有識者会議で「1円スマホ」の規制見直しを検討している。携帯大手からは端末販売をめぐって統一ルールを求める声があがる。ただ過当競争を招いている当事者であり、業界の自浄作用の弱さを映してもいる。
日本経済新聞 2023年2月24日 19:16
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA232OC0T20C23A2000000/