【AI】孫泰蔵「AI時代、リスキリングしなくたっていいんじゃない?」
孫泰蔵氏(以下、孫):これまで私たちはスキルを身につけ、それを常にアップデートしていかないと社会で生き残っていけない、競争に負けてしまうと言われてきました。だから一生懸命勉強したり、資格を取ったりしています。
それは産業革命以来、人間は機械のように働くことが求められてきたからなんです。機械というのは、「性能」や「パフォーマンス」といった言葉で表現されますが、安くて性能がいい機械がもてはやされます。逆にコストが高くて性能が悪い機械は、最新の機械が登場すれば置き換えられて捨てられてしまいます。人間も機械のように扱われていれば、性能が悪いと「役立たず」という烙印(らくいん)を押され、働き続けることができなくなってしまいます。
今話題のリスキリングは、こういう「人間を機械のように扱う考え方」の延長にあると思うのです。これまで必要だったスキルが社会の変化によって改めてリスキリングしなくてはいけない、そうしないと役立たずとして雇用を解除されてしまうという考え方なんです。
リスキリングできる人はいいですが、誰もが雇用側の都合がいいようにリスキリングができるものでしょうか。できない場合にはどうするのでしょうか。できない人は切り捨てられてもしょうがないという社会でいいのでしょうか。
AIの急激な進化で人間のスキルはすぐに陳腐化する
恐ろしい社会ですね。ただ、従業員を雇用する会社の経営者としては、難しい問題です。
孫:僕もこうすればいいとは言えないし、本当に難しい問題だと思います。「これからも検討が必要でしょう」と言ってこのインタビューも終われればいいですが、それじゃあ何の意味もないですよね。
ここで考えなくちゃいけないと僕が思うのは、今「リスキリングしましょう」と言われている方たちは比較的年齢の高い方で、これまで携わってきた仕事がDXによって変化している方だと思いますが、しかしもっと重要なのは、「今後はほぼ全員がリスキリングの対象になっていくこと」なんです。
なぜなら、AIが強烈なスピードで発達しているせいで、誰もが絶えずリスキリングが必要だと言われる世の中になるからです。「ジェネレーティブAI」と呼ばれる創造的なAIが数年前から突如、登場しました。グーグルの研究所から「Transformer」という技術が発表され、その画期的な技術のおかげで「ChatGPT」のような対話できるAIが生まれ、「Stable Diffusion」のような絵を描くAIや音楽を作ったりするAIなども次々に誕生しています。クリエーティブな領域でアーティストでさえも驚くような作品もどんどん作れるようになっています。
つまり、現在はまだリスキリングなんて要らないよと言われている人も、あっという間にリスキリングの対象になるという状況にもう突入してしまっているんです。
じゃあ、どんなスキルを「リスキル」する必要があるのかが次の論点になりますよね。例えばChatGPTに、「こういうプログラムを書いて」と言うと、コードをバッと書いてくれたりもします。もはや人間がコーディングをする必要がなくなり、そのスキルを身につける必要がなくなるのではないかとさえ思います。また、人間が雑に書いた文章も添削してくれるし、「いい感じに書き足して」と頼むと本当にいい感じに書き足してくれたりもする。
プログラミングが必修科目となり、子どもに早いうちから学ばせようとプログラミング教室も人気ですが、将来はプログラミングのスキルを身につけても意味がなくなるかもしれないということなんですね。
孫:はい、子どもたちが学んでいるプログラムは一瞬で人工知能が書いてくれちゃうかもしれない。そうなると、学んでいるそばからリスキリングが必要になっちゃう(笑)。「リスキリングってそもそもなんなんだっけ?」と言わざるを得ない。
「リスキリングしよう」と言う前に、「人間はどんなスキルを身につけるべきか?」という問いのほうが重要かもしれない。みなさんもぜひ考えてみてください。
「スキルを身につけなきゃいけない」という考えは時代遅れになる
以下ソース
https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/041500053/020600109/